けのびで両腕を上げたとき、「腕が耳につかない」「耳の後ろまで腕がいかない」と感じたことはありませんか?
コーチから「腕で頭を挟んで!」「もっと腕を伸ばして!」と声をかけられて、頑張って伸ばそうとすればするほど、苦しい・腰が痛い・なぜか沈む。そんな経験をされている方も多いかもしれません。
結論からお伝えすると、腕が耳につかない原因の多くは やる気や努力不足ではなく、肩・胸・背中といった上半身の柔軟性にあります。そして、硬いまま無理に腕を伸ばし続けると、肩を痛めたり、反り腰でかえって足が沈んだりと、逆効果になってしまうこともあります。
この記事では、僕が現役で泳いできた経験と、これまで多くのスイマーを見てきた経験から、「腕が耳につかない」と感じる方の上半身に起きていることと、無理なく改善していくためのストレッチ・姿勢チェックを紹介します。
けのび姿勢そのものの作り方については、正しいけのび姿勢の作り方とコツ も併せて読んでいただくと、全体像がつかみやすいです。
なぜ「腕が耳につく」姿勢が大事なのか
けのびで一番大切なのは、水の抵抗を減らすことです。特に上半身は、進行方向で水流を最初に受ける場所。ここで腕がしっかり伸びて、頭が腕の間に隠れるような細い姿勢(ストリームライン)が作れていないと、肩や頭に水がぶつかって大きなブレーキになってしまいます。
裏を返すと、「腕が耳につかない」=「ストリームラインの一番大事な部分が崩れている」状態でもあります。だからこそ、コーチも口を酸っぱくして「腕で頭を挟んで」と声をかけているわけです。
ただし、ここで大事なのは、「形だけ無理やり作ろうとしないこと」です。次の章で見ていくように、上半身の柔軟性が足りないままフォームだけ真似ようとすると、別の場所に負担が逃げてしまいます。
無理に腕を伸ばすと、なぜ逆効果になるのか
これまで多くのスイマーを見てきた経験から、「腕が耳につかない」状態のまま頑張って伸ばし続けると、次のような問題が起こりやすいと感じています。
- 反り腰になって足が沈む:肩や胸が硬いまま腕を上げようとすると、体は無意識に腰を反らせて代償しようとします。お腹の力が抜け、足が沈みやすくなります。
- 肩のつまり感・痛み:可動域が足りないところに無理な負荷がかかると、肩関節の前側がつまったり、痛みが出たりします。
- 息継ぎや呼吸が苦しくなる:胸を縮こませた状態で腕を上げると、胸郭が広がりにくく、呼吸が浅くなります。
つまり、「気合いで腕を伸ばす」よりも、まずは上半身の硬さを少しずつほぐして、楽に腕が上がる範囲を広げていくほうが、結果的に綺麗なけのび姿勢に近づきやすいということです。
原因①:肩の前側(胸)が硬くなっている

まず疑いたいのは「肩」ですが、実は 「胸の筋肉(大胸筋)」 が腕を上げづらくしているケースが多いです。
どういうこと?
水泳では水をかくために胸の筋肉(大胸筋)を多く使います。さらに普段の生活でスマホやパソコンを長時間見ていると、肩が内側に巻き込みやすくなります(いわゆる巻き肩)。
胸の筋肉が縮こまった状態で固まってしまうと、腕を上に上げようとしても前側からロックがかかってしまい、耳の後ろまで腕がいかない状態になります。
対策:壁を使った「胸開きストレッチ」
無理に腕を上げる前に、まず胸の前側をゆるめていきます。
- 壁の横に立ち、肘を直角に曲げて、前腕を壁に当てます。
- そのまま体をゆっくり反対側にひねり、胸の前側が伸びる位置で30秒ほどキープします。
- 余裕があれば「壁エンジェル運動」もおすすめです。壁に背中・お尻・かかとをつけたまま、腕をWの字→Iの字にゆっくり動かします。
痛みが出るほど反らす必要はありません。「気持ちよく伸びている」と感じる範囲で、左右それぞれ行ってみてください。
原因②:背中・脇の筋肉(広背筋)が縮んでいる

2つ目の原因は、背中の大きな筋肉「広背筋(こうはいきん)」と、その周りの脇腹の硬さです。
どういうこと?
広背筋は、腕を上から下へ引き寄せるときに使う、水泳では特に活躍する筋肉です。一方で、ここが硬くなったまま腕を上に上げようとすると、筋肉がゴムのように突っ張って、腕を下に引き戻そうとする方向に力が働きます。
その結果、まっすぐ万歳をしたつもりでも、肘が曲がってしまったり、腕が左右に開いてしまったりして、耳の横にきれいに腕が並びません。
対策:体側(脇腹)伸ばし
背中から脇の下にかけてを、ゆっくり伸ばしていきます。
- 立った姿勢で両手を頭の上で組み、片側にゆっくり倒します(ラジオ体操の横曲げのイメージ)。
- このとき、ただ倒すだけでなく、脇の下を天井に見せるようにググっと伸ばすのがポイントです。
- 左右それぞれ20〜30秒ずつ。呼吸は止めずに、息を吐きながらじわっと伸ばしましょう。
背中の動きをセルフチェック
壁にかかと・お尻・背中・後頭部をつけて立ち、両手を真上に上げてみてください。
- 肘を伸ばしたまま、手の甲を壁にぺたっとつけられる → 広背筋・肩甲骨周りはまずまず動いています。
- 肘が曲がる、手が壁につかない、腰が大きく反ってしまう → 広背筋が硬く、肩甲骨が背中側にうまく動いていないサインです。
後者に当てはまる方は、原因②のストレッチを少し優先するイメージで取り入れてみてください。
原因③:背骨(胸椎)が動かず、反り腰で代償している

3つ目の原因は、背骨の中でも胸の高さにある「胸椎(きょうつい)」の動きの少なさと、それを補うための「反り腰」です。
どういうこと?
本来、両腕を頭の上に上げるときには、胸椎が少し反るように動いてくれることで、腕が耳の後ろまで自然に上がりやすくなります。デスクワークや猫背の姿勢が長くなると、この胸椎が硬くなり、腕を上げた分だけ動いてくれません。
そのぶんを補おうとして、体は腰を強く反らせて、無理やり腕を後ろに持っていこうとします(代償動作)。腰が反ると、お腹の力が抜けて足が沈みやすくなり、「頑張って伸ばしているのに沈む」状態になりがちです。
対策①:壁ペッタリ・チェック
「真っすぐな姿勢」の感覚を体に思い出させていきます。
- 壁にかかと・お尻・背中・後頭部をつけて立ちます。
- 腰と壁の隙間を確認します。手のひら一枚分くらいが目安です。
- 隙間が大きく空きすぎる方は、息を吐いてお腹を凹ませ(ドローイン)、軽く壁に背中を押し付ける感覚を覚えます。
対策②:胸椎まわりをほぐす
- 四つ這いで背中を丸める/反らせる動き(キャットアンドカウ)をゆっくり10回。
- 横向きに寝て、上の手を反対側へ大きく開き、胸椎をひねるストレッチを左右それぞれ10回ずつ。
「腕を高く上げるための柔軟性」は、肩そのものよりも、こうした胸椎の動きづくりから生まれることも多いです。
段階的に改善していくおすすめの順番
3つの原因を見てきましたが、すべてを一度に完璧に直そうとする必要はありません。これまで多くのスイマーを見てきた経験から、次のような順番で取り組んでいただくのがおすすめです。
- 陸上で「壁ペッタリ・チェック」:今の自分の姿勢のクセ(反り腰・巻き肩など)を知る。
- 胸・脇・背中のストレッチ:プールに入る前のドライランドで、原因①②を中心にほぐす。
- 胸椎の動きづくり:キャットアンドカウや横向きの胸椎ストレッチで原因③にアプローチ。
- 水中でけのび姿勢を確認:壁を蹴って3〜5秒、力を抜いて滑るだけのけのびで、腕の位置と腰の感覚を確かめる。
- 毎日「その日無理なく伸ばせる範囲」で繰り返す:無理にもう一段伸ばすのではなく、気持ちよく感じる範囲で続ける。
柔軟性は数日では大きく変わりませんが、2〜4週間続けると「あれ、今日はいつもより腕が耳に近いかも」と感じる日が増えてくるはずです。
やりがちな「逆効果な努力」
頑張りたい気持ちが空回りすると、かえってけのび姿勢を崩してしまうこともあります。よく見かけるパターンとしては、次のようなものがあります。
- 無理に腕を後ろに引っ張る → 肩の前側を痛める原因に。
- アゴを必要以上に強く引く → 上を向くような形になり、反り腰を悪化させやすい。
- とにかく腹筋に力を入れすぎる → 体が固まり、呼吸が浅く、姿勢も崩れやすい。
「もっと頑張れば伸びるはず」という方向ではなく、「楽に長く伸びるためにどこをゆるめるか」という視点で見直してみると、上達の方向性が変わってくるかもしれません。
まとめ:無理に伸ばすより、ゆるめてから伸ばす
腕が耳につかないと感じたとき、見直したいポイントを整理します。
- 胸の前側(大胸筋)が硬く、肩が前に巻き込んでいないか
- 背中・脇(広背筋)が縮こまり、腕を下に引き戻していないか
- 胸椎の動きが少なく、反り腰で無理やり腕を上げていないか
この3つを少しずつほぐしていくことで、けのびで腕が耳に近づきやすくなり、ストリームラインも整っていきます。「無理に伸ばす」のではなく、「ゆるめてから伸ばす」という順番を意識してみてください。
けのび姿勢の作り方そのものや、水中での意識ポイントについては、正しいけのび姿勢の作り方とコツ で詳しく書いていますので、合わせて読んでいただくと全体像がつかみやすいです。
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