「後半でペースが落ちるのは、根性が足りないから」——長く泳いできた人ほど、そう思い込みがちです。でも本当の原因は別のところにありました。今回はシゲさんの持論から話が始まります。

コーチ、相談があります。200mや400mを泳ぐと後半でガクッと落ちるんですよ。昔からこれは気合いで粘るものだと思ってやってきたんですがね。

よくあるお悩みですね。ただ、気合いというより、鍵になるのはスレッショルド(閾値)という強度ゾーンの持久力なんですよ。

スレッショルド…閾値ですか。聞いたことがあるようなないような、ですね。

今日はその意味から、強度の決め方、サークルの組み方、週何回が目安かまで、取り組む側の視点で順番にお話ししますね。
まず結論|後半失速は「粘る力」で防げる
シゲさんは長年「後半失速=根性論」で片づけてきましたが、鍵になるのは閾値の持久力です。押さえてほしい要点はこの3つだけ。
- 後半失速の鍵はスレッショルド(閾値)の持久力。ここを底上げする
- 「ややきつい」を一定時間保てる強度ゾーンを鍛えて、粘れる身体に
- サークルと距離設定で段階的に。無理なく積み上げる
閾値を鍛えれば、レース後半でも粘れる持久力が身につきます。

意外ですね。てっきりスピードを上げる練習だと思い込んでいました。粘る力を鍛えるわけですか。

そこが大事なポイントなんです。では、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
スレッショルド(閾値)とは何か
スレッショルド(Threshold)は英和辞典だと「敷居」「入口」「閾(いき)」と出てくる言葉です。水泳ではこの「閾値」の意味で使われます。

何の閾値なんでしょうね。私は昔から数字より体で覚える派なんですが。

乳酸が血中に急激に溜まり始める、一歩手前のラインです。「乳酸性作業閾値」「LT」「OBLA」などと呼ばれます。

目安は血中乳酸濃度が4mmol/L付近に達する強度。ただしこれは一般的な目安で、実際の閾値ラインには個人差があるとされます。

プールでは、400mと200mのベスト差から割り出すCSS(クリティカルスイムスピード)という方法もありますよ。

体でいうと、どのくらいのきつさなんでしょう。

「これ以上上げると一気にきつくなる、今のペースなら何とか粘れる」という、ちょうどギリギリの強度ですね。
スピードでいえば1500m〜3000mのレースペース付近、心拍数でいえば最大心拍数の85〜90%あたり(個人差あり)が目安です。より生理学的な背景は、別記事のOBLA(乳酸性作業閾値)の解説であわせて読むと理解が深まります。
閾値トレーニングで何が変わるのか

この強度で泳ぎ込むと、具体的にどう変わるんでしょうね。正直、半信半疑なんですが。

レースや練習の後半に効いてくる持久力が育ちますよ。具体的にはこんな変化が出てきます。
- 有酸素能力(酸素を取り込んで使う力)が底上げされる
- 乳酸を処理する能力が高まり、後半でも動きが鈍くなりにくい
- 速いペースを「ラクに感じる」ゾーンが広がる
- 全身の毛細血管が増え、回復力も上がる

マスターズなら200mや400mの後半で粘れる感覚をつかみやすく、中高生ならメイン練習のセット後半で落ちなくなる土台が作れます。

なるほど。スピードそのものを上げる練習ではない、と。私の思い込みは逆だったわけですね。

「持っているスピードを最後まで保つためのトレーニング」と考えると、位置づけがすっきりしますよ。
強度の見つけ方は3通り
閾値の強度は、手軽な体感から客観的な数字まで、いくつかの見つけ方があります。取り組みやすい順に整理しました。
| 方法 | 目安 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 体感(RPE) | 会話は無理だがフォームを保って20〜30分粘れるライン | まず試したい全員 |
| 心拍数 | 最大心拍数の85〜90%/カルボーネン法で強度75〜85% | 数字で管理したい人 |
| T20テスト | 20分で泳ぎ切れる距離の平均ペース | 選手・本格派マスターズ |

うまくいっているかは、どう判断すればよいですか。

1本ずつタイムが落ちていくならオーバーペース、ラクすぎて呼吸も整っているなら強度不足、と判断すればいいですよ。

心拍については注意点が一つ。水中の心拍は陸上より10拍前後低めに出やすいとされます。陸上の心拍表をそのまま当てはめないでくださいね。

プールでは体感(RPE)やT20ペースとすり合わせて目安にするのが安全です。防水のスマートウォッチで感覚と数字を合わせるとブレが減りますよ。

T20というのは、たとえばどんな具合でしょう。

クロールで20分1500m泳げる人なら、100mあたり1分20秒前後が閾値ペースの目安、というイメージですね。
サークルの組み方と距離設定
メニューを組むコツは「同じスピードを保てるギリギリのペースで、休憩は短め」。本数を重ねてタイムが落ちるならペースを少し落とす、これが大原則です。休憩は基礎持久力(EN1)より少し短めにします。
| 距離×本数 | レスト |
|---|---|
| 100m × 8〜10本 | 10〜15秒 |
| 200m × 5〜8本 | 15〜20秒 |
| 400m × 3〜5本 | 20〜30秒 |
| 800m × 2〜3本 | 30秒程度 |

私は昔から長い距離を一気に泳ぐのが好きなんですが、いきなり200m以上を繰り返すのはどうでしょう。

マスターズや一般の方だと、いきなりそれは厳しいんですよ。50mや100mの短い距離を多めの本数で組んで、慣れたら距離を伸ばす流れがおすすめです。

ただ、細かく区切るのが苦手なら、500mや800mを「ペースを保ったまま1本」で泳ぎ切るスタイルもアリですよ。

それは私に合っていそうです。同じ強度で長く泳ぎ切れると気持ちいいですからね。

そうなんです。同じ強度で長く泳げると、メンタル面でも自信がつきやすいですよ。
週に何回・1回どれくらい?

頻度はどれくらいがよいのでしょう。昔の感覚だと、毎日やったほうが効く気がするんですが。

いえ、そこは思い込みに注意です。強度が高めなので、毎日入れるとオーバーワーク気味になりやすいんですよ。
| 対象 | 頻度/1回のメイン |
|---|---|
| 選手・本格派マスターズ | 週2〜3回/20〜40分 |
| 一般マスターズ・社会人 | 週1〜2回/10〜20分 |
| 週1回しか入れない方 | その回のメインの一部に組み込む |
閾値の日と、楽に泳ぐ基礎持久力(EN1)中心の日を交互に配置すると、疲労が抜けやすく長続きします。回復とのバランスが取りやすくなります。
マスターズ・中高生への段階的な取り入れ方

私のようなマスターズだと、1回の練習でどんな組み立てになりますか。

まず基礎持久力(EN1)でベースを作ったうえで、メインに50〜100mの閾値を少量入れるところから始めるのが安全です。一例を出しますね。
- W-up:400m DPSやFormで体を起こす
- Pre-main:100m×4 EN1(楽め)
- Main:100m × 6本/レスト15秒(スレッショルド)
- Down:200m Easy

最後まで同じペースで泳げた日が続くなら本数や距離を伸ばす。逆に最後の1本が大きく落ちる日が続くなら、本数を減らすか強度をひと段階下げる、で調整しましょう。

中高生の子たちには、どう伝えればいいでしょうね。

チーム練のメインが閾値系だと感じたとき、「これは閾値ゾーンの持久力を上げる練習だ」と意識して取り組むだけで、効きがかなり変わりますよ。

いやはや、同じメニューでも意識で変わるものなんですね。長年やってきて知りませんでした。

同じ200m×10本でも「とにかく速く回す」ではなく「最後まで同じタイムで回り切ることを最優先」と決めて入ると、効果が閾値寄りに揃うんです。
自主練の時間が取れるなら、チーム練のオフ日に短めの閾値セット(100m×6〜8本など)を1回だけ入れる補強も効果的です。なお、体調や持病に不安がある場合は、無理をせず専門家に相談してから取り組んでくださいね。
後半失速は根性ではなく「閾値の持久力」で越えられます。ギリギリのペースを、無理なく積み上げていきましょう。



コメント