
コーチ、平泳ぎのスタートね。昔から僕は『とにかく深く潜れ』って教わってきたんですよ。だから思いっきり潜ってるんですけど、なぜか浮き上がりが遅くてタイムが伸びなくて。

シゲさん、その『深く潜れ』は昔よく言われた指導なんですよね。でも今は少し考え方が整理されてきているんですよ。

え、深く潜るのが正解じゃないんですか?水の抵抗が少ないって聞いてましたけど。
平泳ぎは4種目の中で、スタートの入水〜浮き上がりが最もタイムを左右する種目です。水中での「ひとかきひとけり」が長く許されるぶん、その前段階の入水と沈み込みが決まらないと、後の動作がすべてズレてしまうのです。
逆に言えば、ここを整えるだけで一段上のスタートが切れるようになります。ポイントになるのは入水角度・沈み込みの深さ・壁からの距離感の3つです。
まず結論|平泳ぎスタートは「角度・深さ・距離感」で決まる
- スタートの入水〜浮き上がりが最もタイムを左右する(平泳ぎは水中区間が長く許される)
- カギは入水角度・沈み込みの深さ・壁からの距離感。この3要素を順に整える
- 前方向に飛びすぎず、斜め前で飛距離と深さを両立させる
スタートは一度整えれば、その後ずっと使える財産になります。

角度・深さ・距離感の3つですか。僕はずっと『深さ』だけ気にしてたなあ。ひとつずつ教えてください。
まず、平泳ぎのスタートで「うまくいかない」と感じる人の多くは、次の3つのどれかに当てはまります。見え方は違っても、原因はすべて角度・深さ・距離感のどこかが合っていないことにあります。
| つまずきパターン | 何が起きているか |
|---|---|
| ① 沈みすぎ | 深く入りすぎて、ひとかきひとけりの後に水面まで戻る距離が長くなり浮き上がりが遅れる |
| ② 浅すぎ | 飛んだ勢いが前に流れて深さが作れず、水中区間の利得をほとんど活かせない |
| ③ 壁に近すぎ | 力んで上にジャンプ、または沈みすぎて壁直下で止まり、後の泳ぎが窮屈になる |

シゲさんの『深く潜れ』は、まさに①のパターンにハマりやすいんですよ。

あー…figですね。深けりゃ深いほどいいと思い込んでました。心当たりありすぎます。

思い込みに気づけたら、もう半分直ったようなものですよ。順番に整えていきましょう。
入水角度の作り方|頭の位置と腕の絞りで決まる
平泳ぎのスタートは頭から入水するのが基本です。特に平泳ぎは、頭の位置と腕の絞り方で入水角度が決まります。飛び出した瞬間から、耳が両腕に触れるくらい、両腕の間に頭をしっかり挟むことを意識しましょう。
| 頭の位置 | 入水の結果 |
|---|---|
| 腕より前に出る | 角度が浅くなり、お腹から落ちる失敗 |
| 腕より下に落ちる | 角度が急すぎて深く潜りすぎる |
| 腕の間にちょうど収まる | 鋭い角度で水面を切る理想形 |

僕、勢いをつけようとして頭を先に突っ込んでた気がします。だから深く潜りすぎてたのか。

陸で立って両腕を上に伸ばし、耳の横にぴたっとつけてみてください。頭・腕・体幹が一本の線になる感覚。それが空中の理想姿勢に近いですよ。
腕は「絞る」ことも大事です。両手は親指を重ねるか手の甲を重ねてまっすぐ前へ。肩を耳の横までしっかり上げて絞ると、頭・肩・腰・脚が同じ穴を通るような美しいラインができます。これがいわゆる「水しぶきが小さいスタート」です。絞りが甘いと入水点が広がって、水中で抵抗が増えます。
角度の感覚としては30〜45度が一つの目安です。45度より急だと深く潜りすぎ、30度より浅いと前方向にしか進みません。厳密に測る必要はありませんが、自分が思っている角度と実際はかなり違うことが多いものです。
沈み込みの深さの目安|深すぎ・浅すぎの見分け方

さあシゲさん、いよいよ深さの話です。目安は水面から60〜80cm。大人の身長なら腰のあたりが水面下60〜80cmにくる感覚ですよ。

えっ、そんなもんでいいんですか?僕、感覚的にもっと1mくらいは潜ってた気がします。

それだと深すぎです。深いと戻る時間が長くなりすぎ、逆に浅すぎると波の影響で抵抗が増える。『波が気にならないけど戻るのに時間はかからない』深さが理想なんですよ。
| 深すぎる人のサイン | 浅すぎる人のサイン |
|---|---|
| ひとかきひとけりを終えてもまだ水面まで距離がある | 入水後すぐ水面に戻り、ひとかきひとけりを使い切れない |
| 浮き上がりに『上に向かって』蹴り出す感覚がある | 水中での滑空時間がほとんどない |
| スタート直後に空気を吐ききって苦しくなる | 最初のストロークが波に押し戻される感覚 |

僕、完全に左の列です…。浮き上がりで上に蹴ってるし、毎回苦しくなってました。

原因がハッキリしましたね。深すぎる人は入水角度が急すぎる可能性が高い。頭の位置を少し前に、腕の絞りを少し緩めて、角度を10度ほど浅くしてみてください。
ひとかきひとけりそのものの動作のコツは別記事(平泳ぎのひとかきひとけり|スタート・ターン後の一回で距離を稼ぐコツ)でも詳しく扱っています。沈み込みの後の動きが気になる人は、あわせて読んでみてください。
壁に近づきすぎない距離感|飛距離は「前方向」で稼ぐ
もう一つの大きな失敗が、壁に近づきすぎるケースです。沈み込みばかりに意識がいって前方向の飛距離が出ず、ひとかきひとけりを始める時点で壁のすぐ近くにいる人を時々見かけます。飛距離の目安は3m前後。中高生・マスターズの上位選手だと3.5〜4mに伸びることもありますが、まずは3mを安定して飛べることが大事です。

飛距離かあ。僕は『壁から離れなきゃ』って気持ちで、力いっぱい蹴って飛んでるんですけどね。

それが実は落とし穴なんですよ。『壁から離れたい』が強すぎると、力んで体が縦に伸びたり、上にジャンプしてしまう。上に飛んで深く潜ると、入水点が壁から2m以内になることもあります。

じゃあ、どこを意識すればいいんですか?

『壁を離れる』より『3m先の水面に届く』という発想に変えるんです。目線を進行方向の5〜10m先の水面に向けると、自然に斜め前の軌道になりますよ。
| 目線の向き | 飛び出しの軌道 |
|---|---|
| 真下 | 入水角度が急になりすぎる |
| 遠すぎる(対岸の壁など) | 浅く・前にしか飛べない |
| 5〜10m先の水面 | 斜め前の軌道で飛距離と深さを両立 |
発想を変えるだけで動きが変わることもあります。「3m先の水面に届くように飛ぶ」とイメージすると、結果的に壁から自然に離れていきます。
入水〜ひとかきひとけりまでの間合い
入水・沈み込み・距離感が整ったら、最後は「いつひとかきひとけりに入るか」のタイミングです。入水後、ストリームライン姿勢のまま1秒〜1.5秒ほど滑空してから、ひとかきひとけりに入るのが基本です。

それも僕、苦手なんですよ。入水した瞬間、つい早く動きたくなっちゃう。じっとしてるのがもったいなくて。

多くの人がそうなんですよ。でも入水直後はスタートで得た最高速度の状態。ここで動きを足すと、むしろ抵抗が増えてスピードが落ちることがあるんです。

じゃあ、いつ動き出せばいいんですか?

『スピードが落ちてきたな』と感じた瞬間が、ひとかきに入るタイミングです。動かないことで前に進む感覚を味わえると、スタートはぐっと変わりますよ。
浮き上がりの角度も大事です。深い位置から急角度で戻ると、稼いだ前方向のスピードが上方向に逃げてしまいます。理想は、ひとかきひとけりを終えた時点で体が水面に対して10〜20度くらいの浅い上向きになっていること。最初のストロークに入る頃には、ほぼ水平姿勢に戻っているのが理想です。
自宅・陸上でできる感覚づくりドリル

僕、なかなかプールの練習時間が取れないんですよ。昔は毎日泳げたんですけどね。陸でもできることはありますか?

ありますよ。陸上でもできる感覚づくりのドリルを4つご紹介しますね。
| ドリル | やり方と狙い |
|---|---|
| ① 壁立ちストリームライン | 壁に背中をつけ両腕を上に伸ばし親指を重ねる。頭・肩・腰・かかとが壁につく姿勢を毎日30秒。反りや頭の前出を発見できる |
| ② スタート姿勢の素振り | 構えて静止する練習を5秒×5セット。構えの再現性を上げると全体が安定する |
| ③ 動画でスタート撮影 | スマホでサイドから撮影。飛び出し角度・入水角度・入水点と壁の距離・深さ・タイミングが一目で分かる(一番おすすめ) |
| ④ プールで飛距離だけ練習 | 3m先の水面のマーカーに届くよう5〜10本。別の日は深さだけ・滑空だけと要素を分解する |

特に③の動画撮影が一番おすすめです。自分の感覚と実際の動きのズレを知ることが、修正の第一歩なんですよ。

なるほど、撮って見てみます。『昔の自分の感覚』を疑うのが大事なんですね。
平泳ぎのスタートが整ってくると、おまけのように泳ぎ全体も整ってくることがあります。逆に、あおり足・前に進まないキック・タイミングのズレといった根本的な問題があると、スタートだけ直しても効果が出にくいものです。気になる人は「平泳ぎのあおり足を克服!原因と練習法」「平泳ぎが前に進まない時に見直したい6つのポイント」もあわせてどうぞ。
よくあるご質問

Q. グラブスタートとクラウチングスタート、どっちがいいんですか?僕は昔ながらの両足揃えるやつなんですけど。

近年は片足を後ろに引くクラウチングを採用する選手が多い印象です。前後の足で踏ん張れる分、反応が速く力も伝えやすい。ただグラブが合う人もいます。両方試して安定する方を選ぶのも一つの手ですよ。

Q. スタート練習をしすぎると怪我のリスクはありますか?

頭から入水するスタートは肩・首・腰に一定の負荷がかかります。1日20本以上を続けて行うと疲労が溜まりやすいので、本数を分けて。違和感が出たら早めに休み、必要なら専門家に相談するのが鉄則ですよ。

Q. 正直、飛び込みが怖い気持ちが抜けないんです…。

恐怖心は誰にでもありますよ。低い位置(座位・立位飛び込み)から少しずつ慣らすのが安全です。無理に台から飛んで変な姿勢を覚えると、かえって修正に時間がかかります。段階を踏むのが結局一番の近道です。

Q. 大会で使うレース用水着で、スタートの感覚は変わりますか?

変わりますよ。レース用は圧着が強いので空中・水中の感覚が違います。大会前には必ずレース用水着で1回はスタート練習を。本番でいきなり着ると違和感に戸惑うことがあるんです。
まとめ|平泳ぎのスタートは「角度・深さ・距離感」で決まる
- 頭は両腕の間に挟む・腕は親指で絞る(入水角度の作り方)
- 沈み込みの目安は水面から60〜80cm(深すぎ・浅すぎを判別)
- 飛距離は3m前後・斜め前への意識で(壁に近づきすぎない)
- 滑空1〜1.5秒を我慢してからひとかきひとけり(間合いの取り方)
- 動画撮影で自分の感覚と実際のズレを確認(陸上ドリルとセット)

よく分かりました。『昔こうだった』を一度置いて、要素を分解してひとつずつ整えていきますよ。

その姿勢が一番の上達の近道です。平泳ぎは4種目でスタートの差が最もタイムに表れる種目。一度きちんと整えれば、ずっと使える財産になりますよ。焦らず取り組んでくださいね。
スタート・ひとかきひとけり・通常のストロークがすべてつながると、平泳ぎは大きく変わります。一つずつ整えていきましょう。
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