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水の抵抗とは?水泳で働く3つの抵抗(摩擦・形状・造波)とストリームラインの物理

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水の抵抗をイメージしたスイマーの姿勢

「もっと姿勢を作って!」
「抵抗の少ない泳ぎを目指しましょう!」
水泳のレッスンで何度となく聞くこのセリフ。けれど、そもそも水の抵抗って何種類あって、どんな仕組みで体にかかっているのか、物理的な中身まで説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。

僕が現役で泳いできた経験と、これまで多くのスイマーを見てきた経験から言えるのは、「水の抵抗の正体を知っているかどうか」で、同じ練習をしても伸び方がまるで違うということです。本記事では、水中で体に働く3種類の抵抗(摩擦抵抗・形状抵抗・造波抵抗)の正体、抵抗を減らすストリームライン姿勢、そして抵抗を「敵」から「推進力」に変えるストローク技術までを整理してお話しします。


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水の抵抗とは?水中を進む体に働く3つの力

水泳が陸上のスポーツと根本的に違うのは、常に体全体が「水の抵抗」を受けながら動いているという点です。空気中とは比べものにならない密度の中を進むため、ほんの少しの姿勢のズレが、推進力を大きく削ってしまいます。

そして、その「水の抵抗」と一括りにされている力は、実は性質の異なる3種類の抵抗から成り立っています。

  • 摩擦抵抗(体表と水のこすれによる抵抗)
  • 形状抵抗(圧力抵抗)(体の前面が水を押し分けることで生まれる抵抗)
  • 造波抵抗(水面で波を立てることで生まれる抵抗)

この3つは別々のものではなく、泳いでいる最中ずっと同時に体にかかり続けています。どれか1つだけを減らせば速くなる、というシンプルな話ではなく、3つすべてに目を向けた姿勢づくりが必要です。順番に見ていきましょう。


①摩擦抵抗:体表と水がこすれて生まれる力

摩擦抵抗は、体の表面と水が触れ合う面でこすれて生まれる抵抗です。体の表面積が大きいほど、また体表が水流を乱しやすいほど大きくなります。

3つの抵抗の中では、実は割合としては小さい部類に入ります。ただし、速く泳ぐ場面・長く泳ぐ場面では、塵も積もれば山となるレベルで効いてくるのが摩擦抵抗の特徴です。

摩擦抵抗が増える主な要因

  • 毛深さ・体毛(レース前にスイマーが体毛を処理するのはこの観点から)
  • 水着の生地表面の状態(ヨレ・劣化・撥水性の低下)
  • 体表近くで生まれる細かい乱流

レーススーツや高機能水着の表面が滑らかに作られているのは、この摩擦抵抗をできる限り抑えるためです。練習用とレース用で水着を使い分ける考え方も、ここに理由があります。


②形状抵抗(圧力抵抗):進行方向の「断面積」がすべて

形状抵抗は、体の前面が水を押しのけて進むときに生まれる抵抗です。「圧力抵抗」と呼ばれることもあり、3種類の抵抗の中でも水中での影響が特に大きいのがこのタイプです。

形状抵抗の大きさは、ざっくり言えば進行方向から見たときの「断面積」「速度のおおよそ2乗以上」に比例します。つまり、速く泳ごうとすればするほど、姿勢の悪さが指数関数的に足を引っ張るのがこの抵抗の怖いところです。

断面積を増やしてしまう「3大NG姿勢」

  • 肘が曲がっている(けのびで腕がまっすぐ伸びていない)
  • 頭が水面より高く出すぎている
  • 下半身が下がっている(腰が落ちている)

体格の良いパワー型のスイマーでも、断面積が大きい姿勢のまま泳いでいると、形状抵抗で力を相殺されてしまいます。逆に、小柄で非力に見える方でも、断面積を小さく保つ姿勢が身についていれば、体格差を覆して進めるのが水泳のおもしろいところです。

「速くなる人」と「なかなか伸び悩む人」の差は、筋力や体格よりも、この形状抵抗をどれだけ意識して減らせているかに表れることがとても多いと感じます。


③造波抵抗:水面で波を立てるほどブレーキになる

造波抵抗は、水面付近を進む体が波を立てるときに、その波にエネルギーを奪われることで生まれる抵抗です。深い水中ではほとんど発生せず、水面に近い場所を泳ぐ競泳特有の抵抗と言ってよいタイプです。

速く泳ごうとすると、自分の前と横にどんどん波ができます。その波を作るためのエネルギーは、本来推進に使われるはずだった力から差し引かれているわけです。速度が上がるほど造波抵抗は急激に増えるため、上級者ほどこの「波を立てない泳ぎ」を意識しています。

造波抵抗が大きくなりやすい泳ぎ

  • 頭をしっかり持ち上げて呼吸する泳ぎ(顔の前に大きな波を作ってしまう)
  • 上下動の大きいキック(水面を叩いてしまう)
  • 入水時に手のひらで水面を「バチン」と叩いてしまう動き

レース中継で、トップ選手のすぐ横にできている水しぶきが意外と少ないのに気づいたことはありませんか?あれは、彼らが造波抵抗の影響をよく理解した上で、水面をなるべく乱さないフォームを作り込んできた結果です。


3つの抵抗をまとめて減らす:ストリームラインという答え

ここまで読んでいただくと、「3種類もある抵抗を、どうやって同時に減らせばいいの?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
その答えが、ストリームラインです。

ストリームラインとは、両腕を頭上で組み、上腕で耳を挟むように体を一直線に伸ばした姿勢のこと。これを正しく作れると、摩擦抵抗・形状抵抗・造波抵抗の3つすべてが同時に下がる、いわば「水の抵抗対策の総決算」のような姿勢になります。

ストリームラインで意識したい7つのポイント

  1. 頭の位置:目線はやや前下方向(プールの底をやや前方向に見るくらい)。これだけで腰の位置が上がり、形状抵抗・造波抵抗ともに減ります。
  2. けのびで腕を「耳に挟む」:両腕を頭上で組み、上腕で耳を挟むくらい伸ばす。スタートとターン後の数mで、ここを正しく作れるかどうかでタイムが変わります。
  3. 体幹を「一本の棒」に:頭・胸・腰・脚を一直線に。お腹を軽く凹ませる感覚で軸を作ります。
  4. 下半身を浮かせる(キックは小さく速く):大きく蹴るのではなく、小さくテンポよく打つキックで腰の浮きをキープ。下半身が沈むと一気に断面積が増えます。
  5. 呼吸時に頭を「上げない」:呼吸のたびに頭を持ち上げると、その瞬間に下半身が沈み、造波抵抗も増えます。横向きにできた空気のくぼみを使って、ほぼ水面と同じ高さで吸う感覚です。詳しくはクロールの呼吸で体が沈む3つの原因と直し方もあわせてどうぞ。
  6. 手首をまっすぐ・指先を進行方向へ:入水時に手首が反っていると、手の甲が水を受けて摩擦・形状の両方が増えます。指先からスッと水に入れ、前腕までまっすぐな線で水を切る感覚で。
  7. ローリング(体の回転)で進行方向を細くする:クロール・背泳ぎでは、左右の肩を交互に水中に入れる「ローリング」が起きます。これで進行方向の断面積が小さくなり、結果として形状抵抗が下がります。

どれか1つだけ意識すればいい、というものはありません。とはいえ全部を一度に直そうとするとかえって泳ぎが固くなるので、1回の練習で1〜2項目くらいに絞って取り組んでみるのがおすすめです。


速くなる人と伸び悩む人:抵抗の「使い方」が違う

ここまでは「抵抗をどう減らすか」の話でした。ここからは少し視点を変えて、同じ抵抗をどう「味方」につけるかのお話です。

水の抵抗は、体全体にとっては減らしたい力ですが、水をかく手のひらにとっては、抵抗そのものが推進力になります。手のひらが動くスピードが速いほど、手にかかる抵抗は大きくなり、その分だけ前へ進む力も増える、という関係です。

このあたりの話は、なぜ水泳では「プル(pull)」と呼ぶのか?の記事で、プル動作と水のキャッチについて掘り下げています。プルの仕組みを知ると、本記事で扱った「3つの抵抗」の話と一気に線でつながります。

「ゆったり泳いで見えるのに速い人」の正体

泳ぎが上手な方を見ていると、ゆったりとした大きなストロークで、一掻きごとにグイッと進んでいきますよね。あれは魔法ではなく、抵抗のかけ方を巧みに使い分けた結果です。

初心者の方は、水をかく時もリカバリー(腕戻し)も同じ速さで腕を回しがちです。一方、伸びていくスイマーは、水をかく場面ではしっかり速く・リカバリーではゆったりと、メリハリをつけて動かしています。手のひらにかかる抵抗を「推進力」として最大限に使い、それ以外の場面では体全体の抵抗を抑えに行くわけです。

「ゆっくり見えるのに、なぜか前に進む」のは、こういう抵抗の使い分けが体に染み込んでいる方の特徴です。


よくある「抵抗を増やす癖」5つと向き合い方

  • 癖①前を見すぎる:目線をやや前下にしてみる。形状抵抗・造波抵抗ともに減ります。
  • 癖②呼吸で頭を上げすぎる:横向きの空気のくぼみを使う意識を持つ。
  • 癖③腰が落ちる:キックを小さく速く、お腹を軽く凹ませる。
  • 癖④肘が落ちる(ドロップエルボー):キャッチ前から肘を高く保つ。
  • 癖⑤ストリームラインが緩い:両腕で耳を挟むまで伸ばし切る。

どれも「悪い癖」というより、その方の体が一番ラクになるように覚えてしまった泳ぎ方です。無理に直そうとすると別の場所に歪みが出ることもあるので、1つずつ、自分のペースで上書きしていくくらいの気持ちで大丈夫です。


道具の力を借りて抵抗と向き合う

姿勢の感覚を養うのには、自分の体一つで試行錯誤するだけでなく、練習用のギアを上手に使うのもひとつの方法です。

  • パドル:手のひらにかかる抵抗を意図的に大きくして、プル動作の感覚を確かめやすくします。
  • フィン(足ヒレ):キックの推進力を補助しながら、下半身を浮かせる感覚やストリームライン姿勢に集中しやすくなります。
  • プルブイ・ビート板:体の一部を浮かせることで、特定の動きだけに意識を絞れます。

道具はあくまで感覚を養うための補助なので、メインは自分の体での泳ぎです。練習で使えそうなギアの選び方は、トレーニングギア特集のページにまとめてあるので、興味のある方はそちらも覗いてみてください。


水の抵抗に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 体が大きい(身長が高い・筋肉質)と水泳で不利ですか?

断面積で見れば不利になりやすい要素はありますが、世界のトップ選手は身長190cm前後の方も多く、必ずしも小柄=有利とは限りません。体格に応じた抵抗対策の姿勢を身につけられれば、体格はむしろ強みになります。

Q2. ストリームラインを長くキープすると、どれくらい速くなりますか?

スタート後の最初の数mと、ターン後の数mを正しいストリームラインで滑るだけで、25mあたりで体感できるほどタイムが変わってくる方もいらっしゃいます。短距離ほど効果が出やすい部分です。

Q3. 水泳の姿勢を陸上で練習する方法はありますか?

あります。仰向けに寝て、両腕を頭上で組んでまっすぐ伸ばす「陸上ストリームライン」を毎日30秒キープするだけでも、肩甲骨周りと体幹の感覚が育っていきます。プールに入る前のウォーミングアップに取り入れるのもひとつの方法です。

Q4. 水着・ゴーグルの選び方で抵抗は変わりますか?

変わります。トレーニングではフィット感が高く動きを妨げないものを、レースでは公認の競泳水着(World Aquatics承認モデル)を選ぶのが基本です。とくにレース用水着は摩擦抵抗を抑える工夫が施されているため、本番でのタイムに直結します。


まとめ:水の抵抗を「敵」から「味方」へ

  • 水泳で体に働く抵抗は、摩擦抵抗・形状抵抗・造波抵抗の3種類
  • 3つを同時に減らす答えがストリームライン姿勢。頭・けのび・体幹・下半身・呼吸・手首・ローリングの7視点で整える。
  • 抵抗は減らすだけのものではなく、水をかく手にとっては推進力。プル動作で抵抗を最大限に使い、それ以外の場面では抑えるメリハリが大事。
  • 「ゆったり見えるのに速い」上級者は、抵抗の使い分けが体に染み込んでいる方たち。

水の抵抗の中身が見えてくると、コーチの「姿勢を作って」「腰を浮かせて」という声かけが、ただの精神論ではなく3つの抵抗それぞれへの対処として腑に落ちてきます。次のスイミングからは、ぜひ「いまの泳ぎは、3つの抵抗のうちどれが一番大きく出ているかな?」と自問しながら一本ずつ泳いでみてください。それだけでも、泳ぎへの向き合い方が少しずつ変わってくるはずです。


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