
「水泳の呼吸は口から吸って鼻から吐く」—
これは水泳教室で誰もが最初に習う呼吸法で、ボビングの練習から始まる水泳の基本中の基本です。水泳では呼吸が制限された状態で運動するため、この呼吸を上手にできるかどうかが大きなポイントになります。
でもちょっと待ってください。
本当に「鼻から吐く」じゃなきゃダメなんでしょうか?
結論からいうと—口から吐いてもいいんです。むしろ初心者や呼吸が苦しい方は、無理に鼻から吐こうとせず思い切って口から吐いたほうが楽になることすらあります。
本記事では、現役の水泳指導者として日々レッスンで伝えている「鼻から吐かなくてもいい」本当の理由、口呼吸が有効な場面、上級者の呼吸調節テクニック、そして苦しさを解消する5つのコツまで、水泳の呼吸の常識をやさしくほぐしていきます。
「鼻から吐く」が水泳の基本とされる理由
まずは、なぜ「口から吸って鼻から吐く」が水泳の基本とされてきたのかを整理します。
- クイックターン時や背泳ぎの浮き上がりでは、鼻に水が入らないように鼻から空気を出す技術が必須
- 水中で口を閉じてリラックスすることで、肺の空気を細く長く吐けて呼吸が安定する
- 飛沫やプールの水を飲み込みにくいため、初心者ほど安全
確かに「鼻から吐く技術」自体は水泳では必須です。必要な場面で鼻から吐けるようになっておくことはマスターすべきスキル。これは絶対に外せません。
それでも「口から吐いてもいい」と言える3つの理由
理由①:口は鼻より大量の空気を素早く吐ける
運動を続けていると脈も上がり呼吸も荒くなってきます。そんな中で、ただでさえ呼吸が制限されるスポーツなのに鼻からだけで吐くのは苦しい人もいるはずです。
マラソンを思い浮かべてみてください。最初は話す余裕があったのに、時間が経つにつれそんな余裕はなくなってきます。そんなとき、鼻だけで呼吸している人はいませんよね。普通は口から吸って口から吐いている。そのほうが一度に大量の空気を素早く入れ替えられるからです。
水泳でも同じ。息が苦しいときの口呼吸は、生理学的に正解なのです。
理由②:呼吸筋が弱い人は鼻から吐ききれない
初心者、特に小さい子どもや高齢から水泳を始めた方は呼吸筋が発達していないため、鼻から息を吐こうとしても力不足で吐ききれないことがあります。
すると空気の入れ替えがうまくいかず、浅い呼吸を繰り返すことになり結果的に苦しくなってしまうのです。
そんなときこそ、力強く息を吐ける口を使えばいい。何も気にせず思いっきり口呼吸しちゃってOKです。
理由③:「鼻から少しずつ吐く」が万人に当てはまるわけではない
初心者へのクロールの呼吸の説明で「顔をつけたら鼻から少しずつ息を吐くようにしてください」と言われることがあります。これも気にしすぎなくていいです。
人それぞれ肺活量も呼吸筋の強さも違います。同じタイミングで呼吸しても、肺の残気量が全員一致するわけではない。慣れていない人ほど、習った通りに一定量を少しずつ鼻から吐き続けようとして、タイミングが合わず苦しい思いをしているのです。
中上級者は実は「自分流」に呼吸を調節している
では中上級者の慣れている人たちはどうしているかというと—
- 途中まで少しずつ吐いて、最後で一気に口からすべて吐く
- 一瞬呼吸を止めて、吐く時間を遅らせてタイミングを合わせる
- 顔を上げる直前までは息を吐かず、顔を上げる時に一気に口から吐いて、そのまま口から吸う
このように、自分でうまく調節して苦しくならないようにしているのです。
(余談ですが、現役時代、有酸素系の時間と距離の長いメニューで余裕がある時は、水の中なのをいいことに声を出して歌ってました…笑)
水泳の呼吸の苦しさを解消する5つのコツ
①「吸う」より「吐ききる」を優先
息を吸うためには、まず息を吐いて肺の空気をなくす必要があります。当たり前のことですが、これを忘れて「吸うこと」ばかりに執着すると空気は満足に入ってきません。
②苦しい時は迷わず「口から吐く」
呼吸筋がまだ育っていない人や、強度が上がってきた場面では口から思い切って吐くのが正解。鼻にこだわるあまり浅い呼吸を続けるよりずっと楽になります。
③タイミングを合わせるには「息を止める時間」も使う
常に吐き続けなくてもOK。一瞬息を止めて顔を上げるタイミングに合わせて一気に吐く方が、調子よく泳げる人もたくさんいます。
④鼻から吐く練習は「ターン・浮き上がり」専用と割り切る
鼻から吐く技術は捨てない。ただし使う場面を限定して、クイックターン・背泳ぎの浮き上がり・潜水時など必要な場面だけで完璧にできるよう練習する。普段の泳ぎでは口呼吸で楽に泳いでOK。
⑤呼吸筋は陸でも鍛えられる
呼吸筋(横隔膜・腹横筋・肋間筋など)は、ドローインや深呼吸トレーニングで陸上でも鍛えられます。陸で1日5分の意識的な深呼吸を続けるだけでも、水中での呼吸の余裕が違ってきます。
どうしても鼻に水が入って練習が進まない方は、ノーズクリップで物理的に塞ぐ選択肢もあります。シンクロ選手も使う定番アイテムで、3個入りなら予備もあって便利です。鼻呼吸の負担を一旦リセットして、口呼吸ベースで泳ぎを安定させてからクリップを外していく、というステップ的な使い方もおすすめ。
水泳の呼吸に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 鼻から水が入って痛い時はどうすれば?
鼻に水が入る最大の原因は「吸う動作のときに鼻が開いている」こと。水中では鼻からも少量息を吐くか、ノーズクリップ(鼻栓)で物理的にふさぐのが手早い対処です。
Q2. 子どもにはどう教えればいい?
まずは陸上で「ぶくぶく〜ぱっ」のリズムから。鼻にこだわる前に、息を吐ききって吸うリズムを体に入れることが先決です。鼻から吐く感覚は徐々に覚えれば十分です。
Q3. 呼吸が苦しくて25mが泳げない
多くの場合、息を吐ききれていないのが原因です。本記事のコツ①「吸うより吐ききる」が効きます。あわせてクロールの呼吸で体が沈む3つの原因と直し方もチェックしてみてください。
Q4. 上級者になると鼻から吐くようになる?
必ずしもそうではありません。上級者は場面によって使い分けているのが実情。スプリントでは口呼吸主体・距離系では鼻と口を組み合わせ・ターン時は鼻のみ、というように。
Q5. プルの動作とも関係ある?
あります。プル(pull)動作のタイミングと呼吸が連動するので、フォームが安定すると呼吸も自然と楽になります。
まとめ:呼吸の正解は「人それぞれ」。苦しい時は口で吐けばいい
- 水泳の基本は「口から吸って鼻から吐く」だが、必ずしもそれにこだわる必要はない。
- 呼吸筋が弱い初心者・苦しい場面では口から吐いてOK。生理学的にも正解。
- 中上級者は「途中で止める・最後に一気に吐く・口で吐く」などを組み合わせて自分流に調節している。
- 鼻から吐く技術は捨てない。ターン・浮き上がりなど必要場面で完璧にできれば十分。
- 苦しさ解消の5つのコツ=吐ききる/口で吐く/止める時間も使う/鼻は専用練習/陸でも呼吸筋を鍛える。
もし泳いでいて呼吸がうまくできなくて悩んでいる方がいたら—「口から息を吐いてもいい」「タイミングを合わせるには息を止める時間も必要」これらを意識して、もう一度プールに入ってみてください。今までよりラクに呼吸ができるようになりますよ♪
ただし最初にも言った通り、鼻から吐く技術自体は重要なので、必要な場面ではきちんと鼻から吐けるようになっておきましょう。



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