
レース用水着(高速水着・テックスーツ)は、数秒のタイム差を左右することがある「最後のギア」です。ただし、メーカーは毎年新モデルを出し、価格帯も2万〜6万円と幅があります。「最新モデルを買えば速くなる」とは限りません。
この記事では、特定のモデルではなく、レース用水着を選ぶときの「基準」を解説します。形状・サイズ・素材・距離との相性をひと通り押さえれば、自分の種目とレベルに合う1着を、ショップやメーカーサイトで自分で選べるようになります。
レース用水着とは何か
普通の水着との違い
レース用水着は、練習用水着と比べて2つの機能を強化した特殊な水着です。
- コンプレッション(圧迫) — 強く体を締め付け、筋肉のブレを抑えて姿勢を保ちやすくする
- 撥水・低抵抗 — 水を吸わない素材表面が、肌や練習用水着よりも水抵抗を減らす
研究では、現代のレース用水着は流線形姿勢で受動抵抗を最大16%、泳いでいる状態で能動抵抗を約5%減らすと報告されており、レースタイムにして100mで約1〜2秒の改善幅が期待されます(出典:Swimming World Magazine、SwimSwam等の海外専門誌)。
一方、コンプレッションが強いぶん着脱に時間がかかり、生地は繊細です。海外のレース水着ガイド(SwimOutlet、SwimCompetitive等)では、パフォーマンスを維持できる着用回数は10〜15回程度とされ、消耗品扱いです。練習で履くものではありません。
World Aquatics(旧FINA)承認モデルの意味
公式大会で着用するレース用水着は、World Aquatics(2023年に旧FINAから改名された世界水泳連盟)の承認を受けたものでなければなりません。承認モデルは厚さ・浮力・透過性などの基準をクリアしており、内側に「World Aquatics Approved」(旧表記の「FINA Approved」のものも有効)のマークがあります。
覆える範囲も規定があります(プール競技の場合):
- 男性 — 腰から膝まで
- 女性 — 肩から膝まで
これを越える(肩を完全に覆う・足首まで伸ばす等の)モデルはレース不可です。海外通販で購入する場合も、必ず承認の有無を確認してください(World Aquatics公式サイトに「Approved Swimwear」一覧があります)。
選び方の3軸:形状・サイズ・素材
①形状(カバー範囲・背中の開き)

男性
- ジャマー(腰〜膝) — レース用の標準形。脚全体にコンプレッションがかかり、ほぼすべての種目で第一候補になる
- ブリーフ(腰〜太もも上部) — 範囲が短く動きやすい。マスターズや、ジャマーが体型に合わない選手の選択肢
女性
女性のレース用水着は、肩から膝までを覆うニースキン(kneeskin)が標準形です。背中の開き方で2タイプに分かれます。
- クローズドバック — 背中が閉じている。コンプレッションが強く、抵抗が少なく、姿勢が安定する。スプリンター向き。着脱に時間がかかる
- オープンバック — 背中が大きく開く。肩の可動域が広く、呼吸がしやすく、着脱も楽。中・長距離向き。クローズドバックより抵抗はやや増える
※ ニースキン以外に、肩から太ももまでで脚部が短いレッグスーツもあります。脚の自由度を最優先する選手の選択肢です。
②サイズ・フィット

レース用水着のフィットは、「ぴったりだが、血流が止まらず可動域も保たれる」がベスト。海外専門サイトのフィットガイド(Elsmore Swim Shop、SwimCompetitive等)では、次の目安が共通しています。
- 水着の生地をつまんで 1cm以上浮き上がるならゆるすぎ
- 肩ストラップの下に 指2本が入る程度がちょうどよい
- 泳ぎ動作で肩・股関節が 無理なく動く
- 呼吸ができる・血流が止まらない
「水中で伸びるからキツめを買えばいい」は誤解です。現代のテックスーツは水を吸わない設計なので、水中で生地が伸びることは基本ありません。海外のフィットガイドでも、サイズを下げすぎることは「危険」「絶対にやってはいけない」と繰り返し警告されています。可動域が制限される、血流が止まる、レース当日に着られない、スタート台で破ける——いずれも実際に起きている事故です。
初めての1着は、必ず試着してから購入することを強く勧めます。海外通販で買う場合も、メーカーのサイズチャートを身長・体重・胸囲・腰囲で照合してください。試着時の感覚は「窮屈」ではなく「全身がぴったり包まれる」が正解です。
③素材・テクノロジー
レース用水着は主に ポリアミド(ナイロン)+エラスタン(スパンデックス) の織り生地で作られ、表面に撥水加工が施されています。
- コンプレッション織り — 部位ごとに編み方を変え、コア(体幹)を強く、肩や股関節は動きやすく
- 撥水コーティング — 水を弾き、水着の重量増加(吸水)を防ぐ。洗濯回数で徐々に効果が落ちる
- ボンデッド(熱圧着)シーム — 縫い目を熱で接合し、抵抗を減らす。手洗いが必須となる理由のひとつ
各メーカーは「コンプレッション最優先」「動きやすさと撥水のバランス重視」など異なる方向で設計しています。形状の選択以上に、自分のレース特性(スプリント型/中・長距離型)に合った設計のラインを選ぶことが、効きます。
距離別の選び方の傾向
同じ「レース用水着」でも、距離によって優先順位が変わります。「短距離専用モデル」「長距離専用モデル」というカテゴリは存在しませんが、同じモデルラインの中で、よりタイトな1サイズダウンを選ぶか、肩の動きを優先したオープンバックを選ぶかといった、フィット選択の傾向が変わります。
短距離(50m〜100m)
- 最大筋出力と抵抗最小化が最優先
- 強いコンプレッション・撥水性能を重視
- 女性はクローズドバック型のニースキンが有力候補
- 男性はジャマーが標準
中距離(200m〜400m)
- コンプレッションと動きやすさのバランス
- 女性はオープンバック型のニースキンを選ぶ選手が多い(肩の可動域・呼吸のしやすさ)
- 男性はジャマーで、サイズはぴったりだが極端なきつさは避ける
長距離(800m〜1500m)
- 長時間の快適性・呼吸のしやすさが優先
- 強すぎるコンプレッションは疲労を早める要因に
- 女性はオープンバック、男性はジャマーで動きやすさを重視したモデルライン
※ あくまで「傾向」です。スプリンターでもオープンバックを選ぶ選手はいますし、長距離でも強いコンプレッションを好む選手はいます。最終的には自分のフォーム・体型・呼吸の癖との相性で決まります。試泳できる店舗があれば、購入前に水中フィーリングを確認するのが理想です。
レース用水着の寿命とコスト管理
テックスーツは消耗品で、海外専門サイトでは10〜15回程度の着用がパフォーマンス維持の目安とされています。撥水コーティングが落ち、コンプレッションが緩むと、新品時の効果は失われていきます。
- 練習では絶対に履かない
- 大会前のアップは練習用水着で行い、レース直前にレース用に着替える運用が一般的
- 大会の重要度に応じて1〜2着持ち、シーズンを通じての使用回数を計画
お手入れは塩素を残さない手洗いが基本です。詳しくは別記事で:
大会前の準備

- 初使用は大会本番ではなく事前練習(短時間) — 着脱の手順、フィット、肩の動きを確認
- 大会前日に出して状態確認 — 伸び・透け・縫い目を点検
- 着脱は時間がかかる前提で計画 — 召集前に余裕を持って
- 爪・指輪・ピアスに注意 — 高価で繊細な生地。引っかけて穴が開く事故が多い
まとめ
レース用水着は「これを買えば速くなる」というギアではなく、自分の種目・体型・フォームに合うものを選んだときに初めて効果が出る道具です。
選定のチェックリスト:
✅ World Aquatics(旧FINA)承認マーク有り
✅ レギュレーションに合った形状(男性=腰〜膝、女性=肩〜膝)
✅ ぴったりだが血流が止まらないサイズ
✅ 距離・自分の特性に合った背中・コンプレッション設計
✅ 試着 or 詳細サイズチャート照合済み
✅ 大会で使う回数とコストの計画あり
具体的なモデル選びは、種目・体型・予算で大きく変わります。本記事の基準を持ってショップで試着するか、信頼できるコーチや先輩の選手に相談してから購入してください。
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