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背泳ぎはなぜ仰向けで泳ぐ?水面を見上げて進む泳法の物語

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4種目の中で、唯一仰向けで泳ぐ背泳ぎ。

水面を見上げながら進むこの泳ぎ方は、競技として整えられるまでに長い時間をかけて、少しずつ形を変えてきました。

なぜ仰向けで泳ぐ泳ぎ方が生まれ、どうやって今の背泳ぎになったのか。世界と日本それぞれの歩みを、物語としてたどってみます。


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仰向けで泳ぐ、というアイデアの始まり

仰向けで水に浮かぶ姿勢そのものは、競技以前の昔から人々の暮らしの中にありました。

顔を水面の上に出したまま呼吸ができて、力を抜けば自然に浮かんでいられる。古代の人にとっても、仰向けで進むことは「水中で安全に移動するための、ひとつの選択肢」だったと考えられています。

この素朴な仰向け泳ぎが、19世紀後半のヨーロッパで水泳がスポーツとして広まっていく中で、少しずつ「競技として速さを競う泳ぎ方」へと姿を変えていきました。


1900年パリ五輪・正式種目への一歩

背泳ぎがオリンピックの正式種目として登場したのは、1900年のパリ五輪でした。

ただ、そのころの背泳ぎは、今のようなしなやかなストロークとは少し違う見た目だったと伝えられています。腕を大きく振って、足は左右にあおる「あおり足」のようなキックで進む、シンプルな泳ぎ方でした。

競技として認められたことで、世界中のスイマーが「どうすればもっと速く泳げるか」を考え始めます。背泳ぎが「水に浮くための知恵」から「速さを追いかける泳法」へと、ゆっくり変わっていったのが、ここからの物語です。


キックとストロークの進化

あおり足からばた足へ

初期の背泳ぎは、左右の足を交互にあおるような動きで水を押していました。やがて、うつ伏せで泳ぐクロールの発展とともに、背泳ぎでも「腕の交互回転と細かいばた足」を組み合わせる形が広まっていきます。

仰向けの姿勢でばた足を打つには、お腹まわりの安定と、足の付け根からしなやかに動かす感覚が必要になります。この「水面と平行に体をまっすぐ保ったまま進む技術」が整っていくことで、背泳ぎは一気に競技的な顔つきになっていきました。

ドルフィンキックの登場と「潜水背泳ぎ」

背泳ぎを大きく変えたのが、水中で行うドルフィンキックです。

スタートやターンの直後、水中で体をうねらせて進む「バサロ泳法」と呼ばれる技術が世界に広まると、背泳ぎは「水面で泳ぐ時間」と「水中で進む時間」を組み合わせる泳ぎ方へと変わりました。水面のストロークだけでなく、潜っているあいだの推進力もタイムを大きく左右するようになります。

あまりに速く長く潜水できる選手が現れたことで、現在のルールでは「スタートやターンの後、水中で進めるのは15mまで」と決められています。これは、背泳ぎという競技の見た目と公平さを守るための配慮でもあります。


スタートの変遷・水中から始まる泳法

背泳ぎがほかの3種目と大きく違うのが、スタートの形です。

飛び込み台ではなく、水中からスタートする。ハンドル(グリップ)をつかみ、両足の裏を壁につけて、合図で一気に水面と並行に体を弾く。仰向けで泳ぐ泳法だからこそ生まれた、独特のスタートの形です。

近年は、足が水面より上に出るように設計された「バックストローク・スタートレッジ(背泳ぎ用足置き)」が国際大会のプールに導入され、滑りにくく、より力を伝えやすいスタートができるようになりました。道具のひとつをとっても、背泳ぎの歴史はゆっくりと進化を続けています。


World Aquatics(旧FINA)ルールから見える背泳ぎ

競泳のルールを定めているのは、現在のWorld Aquatics(旧FINA)です。背泳ぎについては、たとえばこんな決まりがあります。

  • レース中は、ターン動作を除いて仰向けの姿勢を保つこと
  • スタートやターンの後、水中で進めるのは壁から15mまで
  • ゴールタッチは仰向けの姿勢のまま行うこと

ルールを「縛り」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、こうした決まりは、背泳ぎ本来の「仰向けで進む美しさ」と、選手同士の公平な競い合いを守るためのものでもあります。


日本の背泳ぎ・受け継がれてきたバトン

鈴木大地さんとバサロ泳法

1988年のソウル五輪。男子100m背泳ぎで金メダルに輝いた鈴木大地さんの泳ぎは、当時、世界中を驚かせました。スタートしてから長く水中にとどまり、ドルフィンキックで進んでから水面に浮かび上がる。「バサロ泳法」と呼ばれたあの泳ぎは、日本の背泳ぎ史に大きな節目を刻みました。

このレースをきっかけに、潜水で稼げる距離をどう扱うかが世界的な議論となり、のちのルール改正にもつながっていきます。背泳ぎという競技そのものを変えてしまった泳ぎだったと言ってもいいかもしれません。

入江陵介さんが残してきたもの

2000年代後半から長く日本の背泳ぎを引っ張ってきたのが、入江陵介さんです。世界選手権やオリンピックの舞台で、特に200m背泳ぎを軸に、日本人選手として安定した結果を積み重ねてきました。

長く第一線で泳ぎ続ける姿は、これから背泳ぎに取り組む若いスイマーにとって、大きな指針になっています。


背泳ぎの物語が、僕たちに教えてくれること

仰向けで水に浮かぶという素朴な姿勢から始まり、ばた足やドルフィンキック、水中スタート、潜水15mルール…。背泳ぎは、たくさんの工夫と試行錯誤を重ねて、今の形になってきました。

歴史を知ると、自分が今練習している泳ぎ方の一つひとつに、これまでの選手やコーチの積み重ねがあるのだと感じられます。

「なぜこの動きをするのか」「なぜこのルールがあるのか」。そう考えながら泳いでみると、いつものメニューも少し違って見えてくるかもしれません。背泳ぎが少し苦手という方も、得意という方も、自分なりの背泳ぎの楽しみ方をぜひ見つけてみてください。

ほかの泳法の歩みも気になる方は、こちらの記事も合わせてどうぞ。


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競泳ルールの変遷を横串で見たい人へ

本記事は背泳ぎ史に絞ってその歴史を追いましたが、4泳法に共通するルール変遷(スタート判定・潜水距離・装備規制・タッチパッド導入など)を横串で整理した記事もあります。あわせてどうぞ。

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