――渦を味方につけ、抵抗ゼロで突き抜けろ!――

改めて確認しよう:ドルフィンキックの本質って?
競泳をしている人にとって、ドルフィンキックはもうおなじみの動きだよね。
スタートやターン直後に“水中で一気に加速する武器”として欠かせない存在。
でも、そのドルフィンキックが「なぜこれほどまでに速いのか」を、きちんと説明できる人は意外と少ないかもしれない。
✔ ただ大きくうねってるだけじゃない
✔ バタフライのキックと同じようで実は違う
✔ 単なる脚力勝負ではなく、全身の“波”がカギ
今回の記事では、そんなドルフィンキックの「速さの理由」を、以前の記事よりもさらに深堀して流体力学や運動解析の視点から掘り下げていくよ。
ドルフィンキックが速い理由
①渦(うず)をつくって、再利用する
まずは一番のキモ、「渦(うず)」の話から。
ドルフィンキックでは、キックの蹴り下ろしで後ろに強い水流を生み出すんだけど、そのとき水中に大きな“渦”ができるんだ。
そして驚くべきは、その渦が蹴り上げのタイミングでもう一度うまく使われているってこと!
これを「渦の再捕獲(vortex recapturing)」って言って、簡単に言うと…
一度作った水の流れを、無駄にせず次の動作でも活かしてる!
という感じ。
💡これって、一歩ごとに地面を2回踏んで加速してるようなもの。普通なら一回で終わる動作を、うまく体のしなりでつなげて“二度押し”してるから、少ない力で大きく進めるってわけ。
②「ムチのしなり」はただの比喩じゃない
ドルフィンキックの速さを語るうえでよく出てくる表現、「ムチのような動き」。でもこれ、ただの比喩じゃないんです。
じつは、水中で速く進んでいる選手の体には、本当にムチのような「波」が通っていることが確認されています。
具体的には、
- 胸のあたりから始まった動きが
- 腰を通って
- 膝 → くるぶし → つま先へと
“一本のしなり”となって連続的に伝わっていく
この波が途切れずにスムーズに流れるほど、効率よく水を押し出せるというわけ。
🧠 たとえるなら…
✔︎ 動きのスタート地点が胸、フィニッシュが足先
✔︎ 途中で「カクン」と折れたりブレたりすると推進力が逃げる
✔︎ 滑らかに“振動エネルギー”が伝わると、水を押すパワーが最大化される
つまり、「ムチのように波を伝えられる=ロスなく力を水に伝えられる」ということなんだ。
水面にいないから、余計な“ブレーキ”がかからない
ドルフィンキックが速い理由のひとつが、水面に出てこないこと。
これ、ものすごく大きなアドバンテージなんです。
水泳の世界では、水面を泳ぐときに発生する「造波抵抗(ぞうはていこう)」という厄介なブレーキがあるんだけど、ドルフィンキックはこれをほとんど受けないんだ。
🌀 造波抵抗ってなに?
水面をバシャバシャ進むと、波が立つよね。あれを作るのにもエネルギーが必要で、それがスピードのロス(=水の抵抗)になるんです。
- クロールでスピードを上げようとすると、波も大きくなる
- 波を作るのにエネルギーを取られる
- その結果、前に進みにくくなる(スピードダウン)
でも、水中に潜っていれば、そもそも波を作らないから抵抗が激減。
スタートやターンの直後、わざわざ潜って進むのは、まさにこの理由から。
💡だからルールでも制限されてる
「じゃあ、ずっと潜って泳げば最速じゃないの?」と思った人もいるかもだけど、実はそのとおりすぎて、ルールで15mまでしか潜ってはいけないと決められてるんだよ。
それくらい、水中ドルフィンキックの加速力は別格なんだ。
股関節の“ねじり”が、水を後ろに送り出すカギ
ドルフィンキックはただ上下に脚を振っているように見えるかもしれないけど、実はそれだけじゃありません。
股関節の内側への「ねじり」動作が、隠れた推進力のポイントなんです。
この動き、専門的には「内転(内側に閉じる)」と「内旋(内側にひねる)」っていうんだけど、これがあるとないとで足の向きと水の押し方がまったく変わってくるんだ。
🌀 どう変わるの?
普通にまっすぐ足を振るだけだと、水を真後ろに効率よく押しにくい。
でも、股関節を内側に巻き込むように動かすことで…
- 足の甲がしっかり後ろを向く
- 太もも〜スネ全体で水をキャッチできる
- 結果、プロペラのように水を後方に送る動きになる!
💡たとえるなら、脚全体がスクリューになって水を押し出す感じ。
この立体的なねじりが入ることで、ただの上下運動では得られない“押す力”が生まれるんだ。
✅ この動きができる選手はどう違う?
- スピードの伸びが鋭くなる
- 脚の上下動が小さくても、水を強く押せる
- 体幹と脚がしっかり連動しているから、無駄が少ない
実際、ドルフィンキックが速い選手ほどこのねじり動作が明確に出ているのが観察されてるよ。
どんな選手にハマる?
ドルフィンキックを武器にできるタイプ
ここまで紹介してきたように、ドルフィンキックは「ただ脚を速く動かす」だけの動作じゃなくて、全身のしなり・水の流れ・脚のねじりなど、複数の要素が複雑に絡み合ってる。
だからこそ、次のような選手にとっては特に大きな武器になるんだ。
タイプ | 向いている理由 |
---|---|
💥 スプリンター | スタートやターン後に一気にトップスピードに乗りやすい。加速が勝負の短距離で強力な武器になる |
🧘♀️ 体幹が強く柔らかい選手 | 波をスムーズに全身に伝えやすい。ムチのような動きがしやすく、ロスが少ない |
🦵 股関節・足首が柔らかい人 | スクリュー動作がしっかり出せるので、脚の“ひと蹴り”が水にしっかり伝わる |
📏 身長が高い or 脚が長い人 | しなりの振れ幅が大きくなるため、1回のキックで進める距離も長くなりやすい |
逆に、注意が必要なケースもある
もちろん、ドルフィンキックは万能ではない。
場合によってはコンディションや技術レベルによって逆効果になることもあるから、以下の点には注意しよう。
- ⚠ 腰痛持ちの人:強く反る動きが必要なため、腰に負担がかかりやすい
- ⚠ 耳抜きが苦手な人:深く潜ると中耳への圧力が強くなり、レース中に違和感が出やすい
- ⚠ 体幹が弱いとフォームが崩れがち:しなりが途中で切れると、かえって水の抵抗が増えてしまう
💡だからこそ、しっかりとした筋力・柔軟性・水中感覚の土台が必要。
使いこなせれば最強だけど、土台がないと力が空回りしやすい。それがドルフィンキックの“奥深さ”でもあるんだ。
渦を生む!ドルフィンキックのコツとNG例
ドルフィンキックで速く進むには、“渦”をしっかり作ることがポイント。
ただ脚を振るのではなく、水の流れを生み、うまく“再利用”するためのキックができると、推進力がまるで変わります。
ここでは、そのためのコツとNG動作をまとめました!
✅ 渦を生みやすくするコツ
コツ | 解説 |
---|---|
足の甲でしっかり水を押す | ダウンキック時に足の甲全体で水を“後ろへ押す”意識を持とう。強い渦が生まれる |
しなりを足先まで伝える | 体幹から始まった動きを、ムチのように足先へ伝える。途中で力が切れないよう注意 |
蹴り下ろしの最後に足を内側にひねる | 両足のつま先がやや内向きになるようにすると、渦が中央に集まりジェット流を生む |
骨盤をやや後傾させる | 反りすぎはNG。お腹に力が入り、軸が安定してキックの力が伝わりやすくなる |
蹴り上げも意識する | アップキックでも水を後ろに押すイメージを持ち、前の渦を“再キャッチ”する意識を |
🚫 渦が作りにくいNG動作
NG例 | なぜよくない? |
---|---|
膝下だけをバタバタ動かす | 太ももや体幹を使わずに動かすと、水をまともに押せず渦ができない |
足の甲が水面から出てしまう | 水を押す面が消える=推進力が激減。足の甲は常に水中に |
体が反りすぎている(骨盤前傾) | 腰が反るとお腹に力が入らず、軸がブレる → キックの力が逃げる |
蹴り下ろしが弱く、ひねりがない | 渦が分散して推進力に変わらない。蹴りの終わりまでしっかり意識 |
💡ポイントのまとめ
強い渦を生みたいなら:
- 体幹から足先までしなやかに
- 足の甲で水をしっかりとらえ
- 蹴り下ろしの最後で足を内ひねり
これらを丁寧に練習することで、水を“押す”→“使う”→“伸びる”という理想のドルフィンキックに近づいていけるよ!
まとめ
ドルフィンキックは、ただの脚の上下運動じゃない。
そこには、水の流れをつかまえて加速する流体力学的な工夫、全身をムチのように連動させる運動連鎖の妙、そして立体的な股関節のコントロールまで、目に見えないテクニックが詰まっている。
今回紹介した4つの「速さの理由」:
- 渦をつくって再利用する
- 全身のしなりで効率よく水を押す
- 水面抵抗を受けない“造波ゼロ”区間
- 股関節のひねりで水をしっかりつかまえる
さらに、これらを活かすための「渦を作るキックのコツ」も押さえておくことで、ドルフィンキックは単なる移動手段から、勝負を決める“武器”へと進化する。
スタートやターンで周りと差をつけたいなら、まずは体幹・柔軟性・フォーム意識から整えて、“渦を操る感覚”を身につけよう。
水中15mが、あなたの最大の見せ場になるかもしれない。
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