
コーチ、昔は息を止めて何本も潜る練習をよくやったものです。ああいう呼吸制限=ハイポってやつ、心肺が鍛えられて効果があるんでしょう?

呼吸回数を減らす練習と、長く潜る息こらえは分けて考える必要があります。期待できる効果と安全上の限界を、研究と水泳団体の注意喚起に沿って整理しましょう。

ハイポ…。息を止めて泳ぐやつと、何が違うんですか?

はい。最初に大切な結論と、してはいけないことを確認します。
まず結論|ハイポは「心肺の魔法」ではない
最優先の安全ルール
水中で「長さ・回数・苦しさ」を競う息こらえは行わない
- しない:潜る前の過呼吸、長距離潜水、反復する息こらえ、時間や距離の競争
- 頼らない:「苦しくなったらやめる」という本人の自覚だけで安全を判断しない
- 管理する:指導者が目的・本数・距離・休息を決め、対象者を能動的に監視する
この記事の結論
呼吸頻度を調整する練習は、技術と呼吸負荷を扱う一手段です
呼吸筋への負荷や泳ぎのリズムに変化を与える可能性はありますが、効果は一様ではありません。高地トレーニングとも、水中で限界まで息を止める練習とも別物です。

息を止めるほど心肺が強くなる、という単純な話ではないんですね。
そもそも「呼吸制限(ハイポ)」とは
ハイポとは、呼吸の回数をあえて減らして泳ぐ練習のこと。3回に1回=ハイポ3、5回に1回=ハイポ5…というように、呼吸の間隔を広げて泳ぎます。

一般にハイポと呼ばれるのは、クロールで3回に1回、5回に1回など呼吸頻度を調整する練習です。ただし、苦しさや距離を競う水中息こらえとは目的も危険度も違います。

同じ「呼吸を減らす」でも、やり方を混同してはいけないわけですね。
効果の実際|呼吸負荷は増えるが、成果は一様でない
呼吸回数を減らすと、運動強度や息の吐き方によって二酸化炭素が増え、酸素飽和度が下がる場合があります。呼吸筋への負荷、呼吸リズム、呼吸動作を見直す刺激にはなりえますが、「CO2耐性が上がる」と一つの効果だけで説明するのは正確ではありません。
少人数の研究では呼吸頻度を制限した水泳で一部の指標が改善した報告もありますが、対象、練習量、呼吸条件が限られています。高地トレーニングと同じ適応や、すべてのスイマーの有酸素能力向上を期待できる根拠ではありません。
| 目的 | 取り組み方 | 避けること |
|---|---|---|
| 呼吸フォーム | 低〜中強度で通常呼吸を基本に、左右差や姿勢を確認 | 苦しさを目標にして呼吸間隔を延ばす |
| レースの呼吸計画 | 距離とペースに合う回数を、監督下の練習で確認 | 大会で初めて極端に呼吸を減らす |
| 潜水技術 | 競技規則内の短い動作を、指導者が本数・距離を管理 | 長距離・反復・競争・限界までの息こらえ |
| 呼吸筋力 | 陸上の呼吸筋トレを適切な負荷で補助的に使う | 持病や症状を無視した自己流の高負荷 |

呼吸筋への負荷や呼吸動作の練習にはなりえますが、効果は条件や対象者によって変わります。「心肺の魔法」と考えないことが大切です。

次は、競技での使いどころと安全上の限界を分けて見ましょう。
レースには役立つ? 期待していい部分・しすぎない部分

呼吸制限って、レース本番では役に立つんですか? せっかくやるなら試合で活きてほしいですよ。

技術練習として役立つ場合はありますが、呼吸を減らすほど速くなるわけではありません。安全を崩してまで行う練習ではないです。
役立つ可能性があるのは、呼吸動作で姿勢が崩れないようにする、左右の呼吸を練習する、レース中の呼吸計画を確認する、といった技術面です。スタートやターン後の潜水距離を無理に延ばすための練習ではありません。
本番の呼吸回数は、距離、泳法、ペース、本人の技術で変わります。無理に呼吸を減らすより、最後までフォームと速度を保てる呼吸計画を練習で確認しましょう。なお、スタート・ターン後の呼吸についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

本番も、息を我慢すること自体を目標にしないということですね。

その通りです。そして、長い潜水や反復する息こらえは、苦しさの自覚だけでは安全を判断できません。ここは必ず押さえてください。
「息を止めて長く潜る」は別物で、危険
水中での長い息こらえ、反復する潜水、距離や時間の競争には、低酸素による失神と溺水の危険があります。とくに潜る前の過呼吸は、呼吸したい感覚を遅らせても体内の酸素を十分に増やさず、警告を感じる前に意識を失う危険があります。水深に関係なく起こりうるため、「浅いプールなら安全」ではありません。

水中での長い息こらえ、反復、距離や時間の競争、潜る前の過呼吸は行わない。これが基本です。
- 潜る前の過呼吸をしない。深呼吸を何度も繰り返す行為も含む
- 長距離・反復・競争・限界までの水中息こらえをしない
- 呼吸を制限する練習は、内容を理解した指導者が目的・本数・距離・休息を決め、能動的に監視する
- 本人の「まだ苦しくない」を安全の根拠にしない。罰や同調圧力で続けさせない

誰かが近くにいれば大丈夫、という程度では足りないんですね。

はい。活動内容を把握した指導者が能動的に監視し、回数・距離・休息を制限する必要があります。それでも競争や限界までの息こらえは行いません。
どうする|呼吸トレは「目的」で選ぶ
呼吸を鍛えたいなら、まず通常の呼吸を保ったままフォームと吐くリズムを整えます。陸上の呼吸筋トレーニングは呼吸筋力を改善する研究がありますが、肺活量や競技力への効果は同じではありません(→自宅でできる肺活量&呼吸筋トレーニング)。
潜水技術の記事(→潜水能力を向上させる練習法)を読む場合も、距離や苦しさを伸ばすことより、過呼吸をしない、反復・競争をしない、能動的な監視を置くという安全基準を優先してください。

危険な我慢比べはやめて、通常の泳ぎと陸上の呼吸筋トレを目的に合わせて使います。

それがよい判断です。陸上トレも万能ではないので、持病がある場合は医療者へ相談し、器具を使うなら適切な負荷で行いましょう。
緊急時
水中で動かない人を見つけたら、様子を見ず直ちに救助を要請
監視員へ知らせ、安全に水から上げ、呼吸を確認します。必要に応じて119番通報、救助呼吸・心肺蘇生、AEDを行います。救助者自身が危険な場合は無理に飛び込まず、監視員や周囲へ助けを求めてください。
まとめ
- ハイポ(呼吸制限)=主にCO2への慣れ。心肺の魔法ではない
- 息を止めて潜るのは別物で危険。過呼吸厳禁・見守り必須・単独禁止
- 呼吸を鍛えるなら陸上の呼吸筋トレ・吐くリズムから
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