
コーチ、これだけ泳ぎ込んでいるのに、タイムが伸びなくてね。むしろ前より遅いくらいです。やはり、もっと本数を増やすべきでしょうか。

その焦り、よくわかります。ただシゲさん、「伸びない=練習が足りない」とは限らないんですよ。むしろ量を増やすと、逆効果になることもあるんです。

逆効果? 泳げば泳ぐほど強くなる、ではないんですか。

始めた頃はそうなんです。でも、ある時期から仕組みが変わるんですよ。今日はそこを、順番に見ていきましょう。
泳ぎ込んでいるのにタイムが止まる——真面目な人ほど「もっとやらなきゃ」と量を増やしがちです。でも焦りで量を増やすのは、怪我の悪循環になりかねません。
まず結論|焦りは「消す」より「向き先を変える」

要点を先に。
- タイムが止まる時期は誰にでも来る(体の仕組みからくる自然な現象)
- 焦りで量を増やすと怪我の悪循環。増やすなら回復もセットで
- タイム以外のものさしを持つ(ストローク数・維持力・続けた日数)
- 伸びない時期は「土台を作る時期」
- 焦りが消えない時は専門家へ(体は整形外科、心は心療内科)
タイムが止まる時期は、失敗ではなく「土台を作る時期」です。

向き先を変えれば味方になる、と。それを聞けただけで、少し気が楽になりますね。
なぜタイムは止まるのか(頭打ちは自然)
泳ぎ始めの頃は、フォームを覚えた分だけタイムが縮みます。神経系が新しい動きに慣れる時期だからです。ところがある程度慣れると、伸びしろは緩やかになります。これは精神論ではなく、体の仕組みです。

たしかに、始めた頃はぐんぐん伸びましたが、最近はそうもいきません。

それにね、運動生理学では、脳が無理をさせないようブレーキをかける仕組みがあると考えられています。心拍・体温・筋肉の状態を脳が監視して、限界の手前で出力を抑えるんです。

脳がブレーキを…! それは知りませんでした。

逆に言えば、タイムが止まって見えても、体の中では別の能力(心肺の回復・フォームの安定)が育っている可能性があるんですよ。
焦って量を増やすと、怪我を呼び込む
不安なとき、多くの人が「練習量を増やす」方向に向かいます。でも焦りに引きずられた量の追加は、怪我のリスクを高めます。オーバートレーニングのサインが出ていないか、確認してみてください。

こんなサインが重なっていたら要注意です。
| サイン | 見え方 |
|---|---|
| 睡眠 | 寝ても疲れが取れない・質が落ちる |
| きつさ | 同じ練習なのにきつく感じる |
| 気分 | 落ち込みやすい・イライラする |
| 体調 | 風邪をひきやすい・肩や腰の違和感が消えない |
| 記録 | 練習しているのに、むしろタイムが落ちる |

いくつか心当たりがあります。最近、寝ても疲れが抜けなくて。

そのサインが出ている時に量を増やすと、肩・腰・膝の使いすぎ故障につながりやすいんです。増やすなら、その分どこかで回復を増やす——これが現実的です。
タイム以外の「ものさし」を持つ
焦りが大きくなる一番の原因は、タイムという1つのものさしだけで自分を測ること。タイムは結果指標で、体調や水温にも左右されます。手前の指標も見てあげましょう。
| ものさし | 見方 |
|---|---|
| ストローク数 | 同じ距離を、より少ないかきで進めているか(効率アップ) |
| 維持力 | セットの1本目と最終本のタイム差が縮んでいるか |
| 楽さ | 以前は息が上がった本数を、楽にこなせているか |
| 続けた日数 | 仕事や家庭の中で、続けられている事実そのもの |

ストローク数や維持力か…。タイムばかり見ていましたよ。

これらは、タイムに先んじて蓄えている伸びしろなんです。タイムは遅れてついてくる。だから手前の指標を見ているほうが、状態を正しくつかめますよ。
長い目で「上下動」を受け入れる
競技の世界では、1年を通して強弱の波を意図的に作ります。市民スイマー・マスターズに置き換えると、「1年の中で調子が上がる時期と下がる時期は必ずある」「大事なのは下がる時期に何をしているか」ということです。

すべての大会でベストを、とはいかないわけですな。

そうなんです。下がる時期はフォーム改善・基礎体力・可動域など、土台を作るチャンス。「今は地盤を固めている」と思えると、同じ練習でも見え方が変わりますよ。
マスターズと「年齢」の現実
正直にお話しします。加齢とともに、ある時期から絶対的なタイムが少しずつ下がるのは生理学的に自然なことです。でも、それは「諦めましょう」という話ではありません。

マスターズには、年齢区分が上がってから記録更新を続ける方が普通にいます。80代で世界記録を出す方もいるんですよ。

80代で世界記録ですか…! それは励みになりますね。

それに、泳力を年齢別に判定する級認定もあります。絶対タイムだけでなく「級が1つ上がった」を達成感のものさしにする手もありますよ。
それでも焦りが消えない時は
頭で分かっていても焦りが消えない時期はあります。気分の落ち込みや不眠が2週間以上続くなら、体のことは整形外科、心のことは心療内科など、専門家に相談を。真面目に取り組んできた証だからこそ、一人で抱えないでください。

わかりました。焦りを、土台づくりのエネルギーに変えてみますよ。

その意気です! 焦りは、向き先さえ変えれば立派な味方になりますからね。
まとめ

今日の要点を、もう一度。
- タイムの頭打ちは誰にでも来る自然な現象
- 焦って量を増やすと怪我の悪循環。増やすなら回復もセットで
- タイム以外のものさし(ストローク数・維持力・日数)を持つ
- 伸びない時期は「土台を作る時期」。年間の上下動を受け入れる
- 焦りが消えない時は専門家へ



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